飲食業の業務委託「委任・請負」契約の知識と注意点 

目次

業務委託の法律・定義・働き方を理解し、条件交渉をクリーンに堅実な契約書作成が、店舗の繁栄とフリーランスの遣り甲斐に繋がります。

 業務委託に関する法律はなく、分類すると委任と請負契約に属します。委託者は契約の基本知識の理解や留意することでメリットやデメリットと上手に付き合うことができます。
そのためにも、委託先店舗や企業と受託者であるフリーランス、またはコンサルタントとのマッチング方法と契約内容が重要となります。

今後、飲食業に携わる人材はフリーランス、コンサルタントなどの自由な発想ができる業務委託契約が多くなると予想します。ただし、法律を理解しない契約にはトラブル発生の可能性を秘めています。クリーンな業務委託契約で飲食店の働き方改革を進めることは、日本にとっても有益な対策となると感じています。

業務委託は委任、または請負契約に該当

飲食業における業務委託とは、①主に委託者が運営する店舗の調理やホールなど現場従事の委託、②マネージャーやSVなどのコンサルタントや指導的な業務の委託、③店舗一軒の経営や運営委託、④HP制作・メニューブック作成・新メニュー開発など成果物の委託ケースなどがあります。

①~③を目的とする委託者はフリーランスやコンサルタントの受託者に専門知識、技術、経験や運営のノウハウの効果や効率を期待し業務を任せる事であり、受託者は自己の裁量と責任(善管注意義務)のもと、業務を実施することです。当然ながら業務委託契約により、店舗の事業活動が大きく成長する可能性を期待する契約となります。
また、④を目的とする委託者は、目的物の完成「成果物」に対しての契約となります。

受託者は委託者店舗から労働契約以外の役務提供を受け、事業主の形態で業務を行うため、雇用関係のない立場で報酬を受けることになります。
なお、業務委託契約は法的根拠に基づいた法律用語ではありませんので、①~③の委任契約、または④の請負契約のいずれかに該当します。

※業務委託(委任・請負)は最低賃金法の対象とはなりません。業務委任とは行為業務の遂行が目的ですので、委託先と雇用契約を結ばずに、対等な立場・関係で業務を引き受ける働き方となります。
当然、委託先からの指揮命令を受ける立場ではなく、シフトなどでの管理も行われません。ただし、受託者は委任契約に重要とされる「善管注意義務」を負うことになり、飲食業の専門家としての能力から考えての通常期待される業務要望に従い、善良な管理者の注意をもって業務の処理する義務を持ちます。

※業務委託の契約は時間給や月給制ではありません。そのため、「開店準備」や「ランチ運営」「仕込み」「飲食店運営や経営」などの委託内容になります。

※業務委託の委任、または請負業務ですので、社員やアルバイト、パートとは差別化されます。国民保険や年金保険、フリーランス協会や民間の補償保険などについては業務受託者本人(フリーランス)が加入しているケースが多いため、委託先では加入の必要はありません。

派遣とは

労働者(派遣社員)は、派遣元である人材派遣会社と雇用契約を締結し、派遣元と派遣先が労働者派遣契約を結びます。
労働者は派遣先担当者の業務上の指揮命令を受けて働きますが、労働者が労務上やその他でのトラブルやその対応などは現場の担当者ではなく、雇用主の人材派遣会社と交渉することになります。
当然ながら労働者の給与・福利厚生・勤怠管理は人材派遣会社が行うことになります。

民法632条の請負契約とは

ホームぺージ制作・メニューブック作成・新メニュー開発・店舗のロゴ制作などのように、業務の発注を受けた受託者が業務の完成について、委託先から認められた「成果物に対して成功」の場合に報酬を受ける「成功報酬」となります。

欠陥やミスが発覚(瑕疵担保)した場合には修正はもちろんですが、契約次第では一定の期間の責任を持つこともあります。また、最悪の場合は損害賠償の対象となるケースさえあります。

民法634条の委任契約とは

店舗の運営に関する調理やソムリエなどホールの現場従事、またはマネージャーやSVなどのコンサルタント業務については、簡単に完成、成功などの結果は問えません。この場合の受託は「行為の遂行」が契約となります。ただし、受託者は委任契約に重要とされる「善管注意義務」を負うことになり、飲食業の専門家としての能力から考えての通常期待される業務要望に従い、善良な管理者の注意をもって業務の処理する義務を持ちます。

なお、fcoライターの個人的な気持ちですが、受託者も個人事業主・経営者です。法律では認められないものとなりますが、飲食店舗運営を継続的に円満な業務とクリーン化を目指すうえでも、受託者側から状況などに関するミーティングや相談、業務についてのレポートなど、状況の経過、及び結果を報告するくらいの業務が理想なのかと感じます。

民法656・643条の準委任契約とは

一般事務関係における受託は準委任契約となり、法律行為ではない事務の処理を受託することになります。受託者の裁量を求めていることになります。

fcoライターの個人的な見解となりますが、委任契約と同じように善管注意義務は必要となると考えることで善意の業務に繋がると考えます。

3種類の契約書

店舗経営や運営以外の飲食業の業務委託は報酬の支払方法によって、主に下記の3種類の契約となります。

  • 単発業務型⇒原則の報酬は1日間だけということになりますが、単位は1日間×3日や×5日のような計算となります。基本的には出張調理のように単発の委任契約となります。
  • 定額型⇒料理人やコンサルタントなど月間の経過によって発生する委任契約の報酬となります。数か月から数年の契約であり、安定した月額の報酬となる委任契約となります。
  • 成果報酬型⇒ホームぺージ作成、メニューブック作成のような制作物などの成果(成功)の場合だけに発生する成果の成功報酬契約、請負契約となります。
雇用契約との違い

業務委託の請負や委任契約は企業(店舗)対、事業主(フリーランス)との契約となりますので、労働者ではありません。そのため、雇用契約のように労働者が使用者に労働を提供し、使用者が労働者に対して報酬を支払う契約ではありません。則ち、労働基準法や労働契約法には該当しません

よって、委託者からの業務に対する指示や依頼事項に対して許諾が自由であり、また、就業規則上の規則や労働条件に拘束されません。

受託者の法定福利の負担と申告義務

受託者は事業主であり、所得税や健康保険・年金保険などの法定福利については、受託者本人が加入と納税、及び消費税や決算、確定申告の義務を負うことになります。

店舗運営の業務委託・委任契約「経営管理契約」

委託料は毎月人件費に相当する一定額とします。その他、売上、または収益の数%の報酬を加算する場合もあります。売上、利益管理と経費などのリスクは委託側に帰属しますので、受託側は安定度はありますが、報酬の変動は大きくはなりません。委託者の優先権や雇い主(管理)感があります。

店舗経営の業務委託・委任契約「経営委任契約」

営業は委託側の名義で運営しますが、売上、収益管理、経費などのリスクは受託側に帰属します。収益により報酬を変動する方法です。固定費から運営費までの負担を受託側がするため経営と変わりない感覚です。委託側は利益、または売上からの数%、その他に営業権として一定割合を使用料として受け取る方法などがあります。

民法612条 賃借物の転貸の注意

民法では賃借人は賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または 賃借物を転貸することができない(1項)。とあります。契約書で転貸が可能と記載がなければ、賃貸人から契約の解除をされてしまいます。
転貸に触れる委託をする場合、店舗の家主から転貸の承諾を得なければなりません。しかし、承諾を得ることができない場合は転貸と解釈されない業務委託の契約を下記のようにしなければなりません。

委託者(賃借人)が受託者から受け取る定額支払項目があれば、家賃の一部の補助とみなされてしまいます。
その他、委託者の名義において店舗運営を行うことと、委託者の経営において指導権があることが必要となります。当然、権利金の発生する委託契約は転貸とみなされてしまいます。

偽装請負の回避

労働者派遣の偽装請負とは別に解説します。業務委任とは行為業務の遂行が目的ですので、委託先と雇用契約を結ばずに、対等な立場・関係で業務を引き受ける働き方となります。
当然、委託先からの指揮命令を受ける立場ではなく、シフトなどでの管理も行われません。
なお、受託者からの時間外手当や深夜手当などの割増し賃金や賞与などの請求も行えません。
労働関係ではないことを確認しておかなければなりません。

仕様書・覚書の必要性

飲食店の業務委託は基本的な業務委託契約書だけの契約が殆どです。ただし、基本契約にない内容を口約束で曖昧に業務を進めることによって、後々のトラブルを招く可能性が出てきます。
例えば、業務の手順、実施条件、免責、報酬の他に請求できる内容など、業務の仕様、その他を仕様書や覚書でをはっきりさせておくことが大切とされます。

業務委託契約書の印紙について

業務委託契約は請負・委任契約のいずれかに該当します。
基本的に3か月以内の更新のない請負契約は2号文書に該当するために、下記の収入印紙が必要となります。また、3か月を超える継続的な請負契約で記載金額がなく「政令で定めるもの」7号文書に該当した場合は収入印紙4,000円が必要となります。
なお、継続的な請負契約で金額の記載金額があるものは2号文章に該当します。この場合、自動更新があるものについては、更新前の基本契約期間で算出します。
ただし、2号文書に該当せず契約金額が1万円未満の場合は、非課税文書に該当し収入印紙は不要となります。

契約金額必要な収入印紙
100万円以下200円
100万円超~200万円400円
200万円超~300万円1,000円
300万円超~500万円2,000円
500万円超~1,000万円1万円
2号文章

一方、委任契約は不課税文章となり収入印紙は不要となります。ただし、販売代理店契約などの販売契約書については該当することからも、店舗経営・運営の経営委任契約は7号文章に該当する可能性が高いと思われます。専門家との見解の違いを防ぐためにも税務署に相談をした方が得策です。

目次